「ライフガード」
僕がライフセービング活動を始めたきっかけは やりがいの大きさからだと思う。でも同時に 「ライフガード」ってかっこいいなぁって思ってたのも本音だと思う。 朝から、海に立ってみんなの安全を守ったり。 毎日の練習が人の命のためにあって、妥協が決して許されない。 辛くて、厳しくて、苦しいけど、 人の命を預かることに生きがいを感じて、練習に没頭しなきゃいけない。 応急手当や心肺蘇生法、それに海の知識。 山ほど勉強して、山ほど練習しなければいけない。 どうやって、海で泳げば良いのか。 どうやって、レスキュー器材を使うのか。 どうやって、溺れた人を救助するのか。 どうやって、呼吸は回復させるのか。 どうやって、心臓を拍動させるのか。 どうやって、人を運ぶか。 そんなことを「大切だ」と思ってやって、 山ほどやって、 その年、残念な結果と出会った。 正直、あんまり覚えてはいない。 何も出来なくて、僕を見ている僕がいて、 先輩の叫び声が聞こえてた。けど覚えていない。 ほんの数秒間、目を離しただけだったのに、 僕の目の前で、人が沈んだ。 悔やんでも悔やみきれない ただ、死ぬほど泣いた。 そんな記憶がある。 2年後の夏。 3年生の夏。 情けないことに僕は、もう一度、同じ思いをした。 ほんの少し、隣に目をやった数秒間で、また人が沈んだ。 今度は覚えている。 信頼できる仲間と、自分の持っている全てをだした。 だけど、残念な結果になった。 不思議だけど、泣くような気にはなれなかった。 ただ、自分の無力さと存在意義をひたすら考えた。 4年目の夏。 現役最後の夏。 「大切」なことは完全に変わっていた。 本当にやりたいことを見つけた。 正直、あんな思いは勘弁だった。 2度としたくなかった。 でも逃げたくなかった。 自分の知る2回の大切さを、どうしても伝えたかった。 僕は62日間、毎日海に立った。立っていたかったから。 目標はひとつ、 「助けない」こと。 あそこにいる全ての人と、 自分の友達だと思って、親だと思って、好きな人だと思って、 心の底から、つき合った。真剣に。 命の大切さを知る、 一人の人として、向き合った。 多分、この時間がなかったら、 僕はきっと、もっと人の命に鈍感だったと思う。 テレビで、殺人事件や死亡事故が起きることを、 ひとごとのように見ていたと思う。 戦争で人が死ぬことも、傍観者になっていたと思う。 命の危険に関わるようなことを、 「まず、僕の周りにはありえない」と流していたと思う。 でも今なら、自信を持って言える。 「生きてる」ってすごいことだ。 「命」って大切にしなきゃいけない。 きっと誰か一人が死ぬと、多くの人の人生が変わってしまう。 だから僕等は、「命」を大切にすることで 「命の大切さ」を伝える人なんだと思う。 特別な存在なんかではない、びっくりするくらいに当たり前に、 普通の事、命を大切にする。 それが「ライフガード」であって、みんながみんな、 そんな「ライフガード」でいてほしい。 Toru